2010年12月号・社説 →e-mail

てっちゃんシリーズ・その(5)
「てっちゃんの堆肥づくり」 
明峯哲夫(農業生物学研究室/庭協会準備室)

 

 てっちゃんちの庭では、父さんと母さんがたくさんの種類の野菜を育てています。八百屋さんから買う野菜は1年を通じてほんのわずかです。
 菜園の脇には「そらのうえん」と書かれた木の小さな看板が立っています。この看板はてっちゃんが書きました。
 板を白いペンキで塗り、その上に赤いペンキで「そらのうえん」と書きました。てっちゃんは小学生ですから、これくらいの字は書けます。てっちゃんは「そら」だから、青い色でと思いましたが、父さんは赤い色でと言うのです。
 父さんの説明によると、「そらsola」とはラテン語というヨーロッパの古い言葉で「土(つち)」という意味なのだそうです。とすると青ではなく赤い色ということになります。でもなぜ「つち」が「そら」なのかてっちゃんには不思議です。父さんはいつも「土と空はつながっているからだよ」と笑います。

1012-1


 秋遅く、庭の木は一斉に色づき葉を落としました。この年の夏、サクラの木(てっちゃんの木です)にはアメリカシロヒトリという害虫が取りついて、葉がたくさん食べられてしまいました。この虫は梢の先にクモの巣のような巣をたくさんつくり、そこに数えきれない程多くの卵を産みつけます。夏の始め、父さんは下から見上げながら、長い柄のついたハサミで巣を小枝ごと切り落としました。でもサクラの木は相当高く成長していたので、てっぺん近くの巣にはハサミがとても届きません。そこで高い所の葉は大分食い荒らされてしまったのです。そんな訳で、秋、木の下に落ちる葉はいつもより少なくなってしまいました。
 庭にはコナラの木が1本あります。これはてっちゃんが生まれる前、父さんと母さんがドングリから育てたもので、今ではサクラの木よりずっと高く育っています。この木には虫がつかないので、今年もたくさんの葉を落としました。
 てっちゃんはコナラの足元に積もった落ち葉を見て、こうして木は自分の足元を温めているのだと思いました。なにしろまもなく凍えるような寒い冬がやってくるのですから。父さんにそう言うと、ニコニコしながら「きっとそうだね」と賛成してくれました。

1012-2


 父さんと母さんは毎年落ち葉で堆肥を作ります。庭の落ち葉だけでは足りないので、近くの街路樹の落ち葉を集めるのが、秋の大仕事です。今年も父さんは大きな竹のカゴを背負い、何杯もの落ち葉を集めてきました。「木が凍らないように足元の落ち葉は残しておいてね」と、てっちゃんは父さんに頼みました。
 父さんは集めてきた落ち葉の山から何枚かを拾い上げ、てっちゃんに見せました。
赤い色のものは、サクラとケヤキの葉、黄色いのはコナラとイヌシデ、くすんだ茶褐色のものはクヌギの葉、と教えてくれました。庭のカキの木の下でてっちゃんが拾ってきた葉は真っ赤でした。そうそう学校の校庭に一本そびえている大イチョウは、今黄金色に輝いています。
 イヌシデの葉は小さく薄いので、落ちるとくるくると丸まっています。父さんについていって見上げたクヌギの木には、枯れた葉がたくさん着いていました。「クヌギは春になるまで枯れた葉をそのまま着けておくのだよ」と、父さんが言いました。これならクヌギは寒い冬裸にならずにすみます。「父さんが集めてきた落ち葉にクヌギの葉が少ないのは、そのためなんだ」とてっちゃんは合点しました。

1012-3


 いよいよ堆肥づくりです。今年からてっちゃんも手伝うことになりました。
 「そらのうえん」の一角に木でできた大きな枠があります。その中に落ち葉を積むのです。この時に米ヌカという茶色のサラサラした粉を混ぜます。米ヌカは御用聞きにくる米屋さんに分けてもらいました。父さんは「米ヌカを混ぜると良い堆肥ができるんだよ」と言いました。
 父さんが枠の中に落ち葉を積んでいきます。その度に母さんが米ヌカを少しずつまぶし、その上からじょろで水をかけます。てっちゃんの役割は湿った落ち葉の山に乗って踏み固めることです。長靴を履いたてっちゃんは落ち葉の山でトントントンと何回も何回もジャンプしました。こうしてみるみるうちに大きな落ち葉の山ができました。父さんは最後にござをかぶせました。

 それから何日かしたある日の朝。今朝はぐっと冷えているようです。起きてきたてっちゃんが「そらのうえん」の方を見やると、落ち葉の山から白い湯気のようなものがもうもうと出ています。駆け寄って恐る恐る山に触れてみると、熱い!のです。やっぱり湯気でした。「こうして堆肥ができていくんだよ。来年も美味しい野菜が食べられそうだ」と、父さんはうれしそうに言いました。

 昼過ぎ、てっちゃんが学校から帰ってくると、落ち葉の山の上でネコのミルク一家(ミルク・キャラメル・バター・ヨーグルト!!)が昼寝をしていました。

1012-4

<イラストレーション・下山千絵>