2008年11月号 / Top
にわにわにわ研
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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081128 イギリス・仕事場としての庭 2
文・写真/ナガタ・ま(庭プレス)

 訪れたおもなところ

1、Borth ;前号参照

2、CAT ;前号参照

3、Lammas Project ;→写真

 http://www.lammas.org.uk/index.htm

4、CaeMabon ;→写真

 http://www.caemabon.co.uk/?page=183

5、Eden Project,Spitalfield は次号で!

ラマス・プロジェクト
 Lammas Project

 Sさんの案内で道を迷いながらですが(それが楽しかった)エコビレッジ;ラマス・プロジェクトの予定地に行くことができました。計画の主宰者であるポールがはるばるやってきて敷地を案内してくれ、話を聞くことができたのがラッキーでした。

 ウェールズってなんか北海道みたいだなと思ったんだけれど、それはイングランドにくらべて圧倒的に農業地帯だしややビンボーなのかな、羊ばかり目につき閑散とした感じ。農村の狭く曲がりくねった道を車で走るとよくカリカリと灌木の枝が車体を擦る。たいがいそれはブラックベリーなのでした。どこにでも生えてて繁殖力も強く、邪魔だとばかりじゃんじゃん切られるのだそうですけれど、あらもったいない。
 どこにでも見られる羊の牧場、ただそれでの生計はむずかしく、農的環境保全の意図もあって行政から助成金の制度があるのだそうです。そうなのか...。

 着いたときはひどい雨降りで、まずは近くにある倉庫の中で話をしましょうということに。入るとプロジェクトとどういう関係になるのか聞き忘れたのですが、そこは発明家(?)ジョンの仕事場。彼が熱心に作品の説明をし始めました。
 作りかけのコンポスト・トイレ。キャンプサイトなどでの利用が目的とのことです。作品の資材はたいがい何か廃棄物の再利用で、これもドラム缶が容器、ハンドルなどは洗濯機についていたもの(プーリー)を流用しています。この容器の上でボトンとやる。少したまると回転させるのです。これを繰り返し満杯になるとはずして別なカセット(!)を入れる。はずした缶は日当りのよいところに置きときどき転がしていると内容物がめちゃくちゃ目減りすると言います。そして最後に堆肥として完成。この話、ずいぶん前にアメリカの事例を読んだことがあるので、きっと独自の発明というわけでもないと思いますが、実物を目の当たりにし、なんかイイかもでした。要点は糞尿分離便器(写真で青いのが見える)でしょう。「内容物」がじゃぶじゃぶしているとうまく管理できないわけです。どんどん売れるようだったら廃棄物製じゃなくてプラスチックかなんかできれいに作りたいって言ってたけれど、本気じゃないような気がします。
 さらにやはりキャンプサイトなどでの使用を考えた、太陽熱温水器と付属のシャワー(これはイマイチか)。さらに風力発電機のキット。これはイイと思いました。大きくないのでせいぜいPCの電力用くらいだと言ってましたが、風車や蓄電装置のかなりが彼がこしらえたもの。つまり相当にローコストのようです。キラキラしているジョンのまなざしはステキで、同行のLilyクンなんか「わたしオヨメさんになりたい!」なんちゃってなのでした。
 倉庫の横には温室があり、長い雨樋の上などで野菜が育っていました。雨樋は土が豊富ではないところで野菜を育てる場合を考えるということと、それとは別に肥料の実験。ポリタンクには数種の混合物、たとえば海水、おしっこ、台所の排水などが入っていて混合比を変えてあるようです。樋に流しながら野菜が育ち、最後に排出された水は適当に浄化?されており(端末にセラミックの玉が使ってありました)さらに利用されるという、なんかヤルなあでありました。
 地面に置かれたプランターは洗濯機のドラムで、イギリスで相当に困ったもの扱いされているナメクジ(10センチ長くらいのを見た)の被害がこれで軽減されるのだそう。地面から少し浮かすということと、あのイボイボをナメクジが嫌うのだそうですが、ホントか...。

 そんなんでラマス・プロジェクトの話がすっ飛びそうでしたが、止まない雨の中を敷地見学。広いこと。約30haを購入済みだとか。その一部を使いとりあえず9ファミリーがそれぞれ数haづつを所有する形で、つまり村を構成するかのような計画だとのこと。土地だけで各々確か700万円くらいとか。あなたもどう?って。
 住む予定の家族たちはこの土地に見合った仕事の立ち上げを前提に暮らしを考えています。作物を作る、酪農、食品加工、研修施設として、などなど。エネルギー自給、給排水はこの土地内で循環、建築物は再生可能な資材を極力使いまわりとなじむ形とする、などエコビレッジとしての特質は当然視野に入っているようです。
 また住人だけでなく幅広くサポーターを募り、この計画を支えてもらったり部分的であれ計画への参加の権利を生じさせることでコミュニティを開いたものにしていく準備もしています。その呼びかけの意図もあって、計画の意味や背景などが理解できる映像作品(DVD〜関心のある方にはお貸しします)も用意し、なかなか周到にやっています。
 ただ残念なことに地域行政の開発許可(のようなもの)が度重なる申請にもかかわらずまだ出ておらず、広大な土地にまだ手はつけられていません。付近の人々にとっては新たな住人となるのは地元の慣れ親しんだ人などでなくイングランドからやってくる人が多いことなどの理由による抵抗感はかなりあるのだそうです。だいたいポールにしたってあの長髪やファッションはフツーとは言えない(Lilyクンに言わせれば「王子さま」なのだそうですけれど)。果たしてその許可が出るかどうかはたいへん微妙な見通しのようです。

 わたしはラマス・プロジェクトは「買い」だと思いました。風呂敷の広げ方といいその中身といい、その総合的・統合的な枠組みは、かつて類似の試みが果たせなかった課題を乗り越えていくかもしれない。そのまとめ方が今日的で上手いのかもしれません。なにかカリスマやカミサマが突出しているようでもない(ポールの物腰は魅力的ですが)、手法においてもパーマカルチャーだのダイナミック農法だのが声高に主張されるわけでもない、サスティナブルとかムラとしてのまとまりにしても強引なところが感じられない。でも課題は「全部」なのだということは伝わってくるし、断固実現していこうとする熱意は半端なものではなさそうです。
 雨でぐしょぐしょに濡れたのですけれどね、何か元気になっちゃいました。

*

カエマボン
 CaeMabon

 ウェールズらしい?丘陵を北へじゃんじゃん走ってカエマボンに行きました。やはりSさんの案内。彼女が書いた「欧州エコビレッジ深訪」(ビオシティ2008年夏号)を事前に見、いくつか写真があったあのかわいい建物にお目にかかろうというわけです。途中鉱山や採石場のような跡地(荒れ地)もあったけれどおおむね美しい自然が管理されたかたちで展開し、もう少しで目的地というあたりはスノウドニア国立公園内。道路が混むなどということはなかったけれど、休憩や食事に寄った村などは夏休みを過ごす観光客でにぎわっていました。

 幹線道路から、だいたいこの辺りだという小さな湖沿いの枝道に入ると、舗装はなくぐねぐねと曲がりやアップダウンを繰り返すややコワイ感じです。林の中だし斜面を切り盛りしているから間違えると転がる。「ここだ入口は」は「なんで?」であって何も標識はありません。そう、ここはとくにコミュニティを名乗ったり目指しているのではないのでそういうものは必要がないわけね。そして今回の訪問(一泊)は年に一度のしかも短期のみ設定された部外者でもオッケーよ、というタイミングでした。ま、それでも主宰者を知っているSさんあってのことですが。で、その主宰者のアーティスト氏とは「なんで?」の分岐点ですれ違ってしまいました。車を止め一応かんたんな挨拶をしましたが、用事ができこれから出かけるとのこと。

 ここは彼がごく親しい友人たちに声をかけ協力を得て立ち上げた場所とのこと。ただそれはプライベートな場所というのではなく、運営主体はそうであっても建物建設や敷地内の整備などに広く一般からの参加を呼びかけその体験を持ち帰ってもらうことを意図的に行っているようです。“...それぞれの建物は専門家をインストラクターに招き、ボランティアやコースの受講生によって建てられた。建築の他に木工やアート、ヒーリング、スピリチュアル研修などのワークショップも運営している。〜「欧州エコビレッジ深訪」”

 国立公園内での立地ですから初期は非合法建築だったそうです。でも最近その活動の意義が自治体や付近住民の理解につながり合法化されたとのことでした。この建物で本当かなあと思いましたが、法的なところはさておき、有志でこしらえたという建物群はおしゃれで特に街から来た人にはウケるでしょうね。イレギュラーな時期とはいえ私たちを受け入れてくれたスタッフ数人は泊まりの約10人ほどにほどよいお世話をしているという感じでした。ストックしてあった食材の有り合わせ的メニューも付近の野草サラダと組合わさるとなかなか。敷地内の渓流横にしつらえられたホット・タブは魅力的だったけれどいつまでもそこから聞こえてくるお嬢さんたちの歓声に気後れし入浴体験をあきらめた次第。

 そうかこういうやり方もアリかという実感がわきましたが、長い目で見れば以後推移がありそうな気もします。社会性という観点からすると受け身というかやや弱い面(善し悪しではなく)もありそうです。しかし「そこ」から入っていこうとする人々の受け皿としては必要・有用なものだなと思えました。

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