2009年05月号 / Top
にわにわにわ研
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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090528 ニワを待つ
文/谷川 真弓子(農的くらしのレッスン研究科「マメ研究室」主宰

 「ニワとは何ぞや」、「ニワで何をするのか」が“庭しんぶん”に関わる人たち(読者のあなたも含めて)の関心事項である。何があったら庭なのか。花なのか、野菜畑なのか、ベンチなのか。ニワで土いじりをするのか、動物を飼うのか、昼寝をするのか。いろんなニワがある。それぞれのニワがある。

 しかしここで待っているのはそういう実存の庭ではなく、“The Garden”という映画である。

 そもそもこの映画のニワとの出会いはオバマ大統領のニワにさかのぼる。三月後半Nさんが「オバマ夫人が始めた菜園は流行るか」という問いかけをした。それはインターネット上で見つけたニュースによるものらしかったが、実は私がその数日前に読んだ‘Recession gardens’ blossom amid downturnという元はAP配信の記事(私が読んだのはThe Japan Times掲載)にある団体がホワイトハウスに自給菜園を作るよう署名活動をしていることが紹介されていて知っていた。改めてその記事を読み、その団体をインターネットで検索してみた。

 Kitchen Gardeners International(KGI)というそのアメリカのNPOは、家庭菜園、今流行りの言葉でいう「内食」(自宅で料理する)、地産地消などを通して食糧自給を高めるために個人や家族、地域が力をつけることを支えることを目的として活動しているそうだ。そのホームページでは家庭菜園づくりのヒント(5/6付「何故最後に霜が下りた日付が大事なのか」)や有機栽培に関わる記事(5/12付「ちっちゃな有機菜園を怖がっているのは誰?」(ホワイトハウス菜園のような有機栽培のブームを恐れた化学肥料・殺虫剤会社連合がオバマ家にそういう「作物を守るもの」を使うよう懇願している))を新聞・書籍から許可を得て転載したり、自分たちの活動広報をしている。後者では、Kitchen Garden Dayという家庭菜園に関わるイベントをする日(今年は8/23)を世界で揃って行おうと企画したり、アメリカの独立記念日にかけて7/4をFood Independence Dayとして自らの食べ物の独立・自立を意識して試みる日(これはつまりは「地産地消」、北海道では毎月第三土日の「どんどん食べよう道産DAY」と同じようなものかと私は解釈した)にしようと呼びかけている。

Kitchen Gardeners International
http://www.kitchengardeners.org/

 先日そのサイトを見ていたら、5/11付で“The Garden” coming to a theater near youという記事が“The Garden”という映画の地方上映予定と共に載っていた。KGIではその映画の基になる出来事をそのサイトで扱ったとリンクをはってもいる。経済的・時間的・精神的負担になるのでテレビ・映画には関心を持たないようにしている私は映画の動向に疎いので、その時は斜め読みをしただけだった。数日後たまたまHさんとの会話で映画の話になったので、この映画について知っているか聞いてみた。彼女が知っているニワに関わる映画リストの中にはこの映画がなかったようだったので、改めてその記事やリンクされている映画のサイトを見た。

http://www.thegardenmovie.com/

 “The Garden”はドキュメンタリー映画で今年2009年アカデミー賞ベスト・ドキュメンタリー賞候補作にもなり、その他の映画の賞を受賞したり候補作になったりしている。この映画が追うのは、1992年のLos Angeles (L.A.)暴動後人々の、町の、癒しとしてL.A.の街のど真ん中で14エーカーというアメリカ最大級で12年営まれたコミュニティ・ガーデンが再開発の目的で突如使用禁止になったことに対しての使用者の動きである。このコミュニティ・ガーデンの使用者の多くは中南米からの移民で、祖国では自分の意見を述べることで自らの命が脅かされる経験をしてきた。しかしその彼らがこの「ニワ」のために団結し、閉ざされたドアの向こうで勝手に行われた土地取引についてのこたえを求めて闘う姿をこの映画は追っている。その中ではこのコミュニティ・ガーデンに対する行政側の様々な意見や政策決定過程、全ての人への正義(‘justice for all’)がどうあるべきかも描かれている。

 人を動かすニワ。そのニワの行方を追って四年半かけて作られた映画。映画に興味を持たないようにしていると言いながらも、気になってきた。

 DVDを予約購入にしたというNさんが教えてくれた、アカデミー賞発表会場でのインタビューで監督のScott Hamilton Kennedyは「(かなりの時間と労力が費やされただけの価値のある映画でもあるが)entertainingでもある」と言っている。どのようにentertainingなのであろうか。

Scott Hamilton Kennedy THE GARDEN
http://www.youtube.com/watch?v=fffjw4G2IU0&feature=related

Oscars 2009 Scott Hamilton Kennedy
http://www.youtube.com/watch?v=RGL3mYLNsQc&feature=related

 このニワが生まれるきっかけとなった1992年のL.A.暴動の背景も気になる。そんなニュースを見た記憶がかすかにあるような気もするが、高校生が受け取る時事問題と今おさらいするのでは状況の理解度が違う。今回ちらちらと見た映画の宣伝の一部にその様子も映っていたが、かなり大きなものであったからこそ「癒し」が必要とされ、それだけ広い土地が手つかずになったからこそこのニワが生まれたのだろう。今のこの時代、このニワ、映画にまつわる情報はパソコンの前にしばし座ればいくらでも手に入れることができる。しかし、予備知識をあまり増やさないでこのニワを待ちたい気もする。

“The Garden” coming to a theater near you
It’s just around the corner

 だってDVDが海を渡ってくるまでほんの数か月。ニワはすぐそこにやってくるのだから。

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