2010年09月号
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発行;庭しんぶん
庭プレス社
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100928 「有機農業の技術と考え方」を読んで
/片桐つくね(獣医師/NPOあおいとり共同主宰)
 私には伝統的有畜農業の暮らしを60年以上続けた祖母がおり、その中で18歳まで育った母の娘ということになります。祖母のくらしの技術は、それはそれはすばらしかった。けど、彼女らは、貧困の東北奥羽地方の僻村で、特に女であったゆえに、苛酷な労働と信じられない因習、激貧のため受け損ねた教育と医療、残酷な衛生環境の中で、それでも自作農であったために餓死や人身売買からは逃れ生き延びました。その血統の私だから、伝統的有畜農業に対する、懐古的ロマンティックな気持ちは持ち合わせていません。かえって否定的です。

 私は「多神教」シンパであります。全ての物に神が宿る。その神は、在野の人間と同様、機嫌が良いときもあれば残忍な気持ちになることもある。優しいときも暴力的なこともある複雑な神様達です。ヒトはその中で運命づけられて生きている。一神教の宗教のように、神が正しく、その超越性に全てをゆだねれば何もかも解決する、救いは神が差し伸べる手にあり、悪魔を除去してしまえば何もかも上手くゆく、願いは叶う物で叶わないのは精進が足りない、という思想は理解できるものの、与しません。

 私は、有機農業者の味方です。そして多用な生き物たちが好きです。なぜなら、友人達がつくるそれら野菜はおいしいし、彼/女らの農場を手伝ったときの、楽しさや苦労が分かるから。生き物たちの「形やありさま相互関係」が美しいと思うから。私の購入食材はコーヒーと紅茶、油類、アルコール類以外、全部国産です。でも、ジャンクフードを食べることが大好きだし、コンビニのお総菜やお菓子は買うし、家畜に与えられる餌のほとんどが輸入飼料であることに目をつぶり、虫が湧かない水洗トイレと、野生動物の住み処を破壊して作る「携帯電話」「石油」などを使っています。

 という、中年・家族なし・女・畜産関係技術吏員・衣食住に満足はないけど不足もなし・地方都市又は田園地帯で3年毎に宿替え・ほぼ健康〜が読んだ感想。

 明峯先生の科学的説明の部分はとても興味深かった。淡々と書かれているから。
 前半の、有機農業実践者の感想文?の部分は、居心地が悪かった。欲情できないエッチ映像を、それでも観なければならないようなかんじです。書いているのが良いひと達であることが、にじみ出ているだけに。物事には光と影があるはずなのに影が書かれていない。成功した男性ばかりが書いていて女性や若年者や失敗者からの意見がない。
 後半の実例は、農業適地について書かれたものだったので本州の耕作放棄地で新規に始めるのには、有用で興味深いかもです。私の周辺の耕作困難地帯(北海道のように寒冷地とか、がらがら石があるところと、傾斜地、野生動物がたくさん出るところ、一人で又は自分のためにやる農業)には、向いていないと、感じました。

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