Usso800_0704

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070430 ホーム・ワーク・イントロダクション

 具体的にモノのありよう(の変更)をもって社会にカンケイして行こうとする姿勢が染みついている原因は、学生時代から関わった「たまごの会」の農場自力建設であったと自覚する。今でもどうしようかと立ち止まったとき、アタマをよぎるのは30年以上も前、あのときのいくつかのエピソードである。
 参考書だぜ、と、いっしょに関わっていたKさんがテーブルに置いたのは出版されてまもない「Shelter」誌だった。以来これにはお世話になった。具体的にというよりも何かそこに流れる精神のようなものに。びっくりしたのは数年前、出版後30年を経て邦訳が書店に並んだときだった。何で今どき...。
 同じ著者が2004年に「Home Work -- Handbuilt Shelter」を出していて、以下はその前文の邦訳である。我流意訳もイイところだし著者の了解もないのであしからず。
 「庭工作隊」のバイブルであろうと思われたのでね。

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 1973年夏にボブ・イーストンと私は「シェルター」誌を著した。それは世界中の建物やそれを作る人々を、歴史を遡ったものも含め取り上げ、1000枚以上の写真と250以上の図版とともに構成したものだった。それは主に自分自身のために作られたものを取り上げ、有用でエコロジカル、そしてアーティスティックなものであった。それはまさに自分で住まいを作りあげている人々であり、他のどこにも見られないような形の建物を多く含んでいた。その本がかもし出しているのは、どちらかというと反体制的な、アンダーグラウンド的な住まいの雰囲気であった。出版後約25万部が売れ、今も再販が行われている。

 「シェルター」から30年、私たちの出版社はいろいろなプロジェクトを行ってきたが、私自身は建物に関心があった。どこに行ってもその写真を撮り、作っている人々にインタビューをし、資料やデータを集めてきた。「ホーム・ワーク」は結果的にこの30年間に私が見つけてきたものの一覧であり「シェルター」の続編ということになる。またそれとは別な意味で続編と言えると思う。それは住まいを手に入れるにあたって「シェルター」誌に鼓舞され、直接作ることに手を染める中で人生がねじれたように変わってしまった多くの人々が登場するからだ。何年もの間、驚くほどの人々が「建物をこしらえようとしたときにこの本が自分たちを奮い立たせた」と私たちに伝えてきた。実際に手がけるという勇気を、本は彼らに与えたわけだ。
 「ホーム・ワーク」を通して見る60年代の脈絡というのは分かりやすいものかもしれない。本に登場する人々の多くが60年代に起こった出来事によってなにがしかの動機を与えられたわけだから(私もしかり)。その時代の精神であると思われる〜どこかに出かけていって住まいを作りなんとかうまくやっていくという〜それは60年代ならではの特徴的な要素として存在した。なぜなら私は生きる場所を必要とし、購入すべき魅力的な古い建物など見つけられなかったからだ。それはきっと私自身の宿命だっただろうと思う。グッド・フィーリングな住まいを求めたならば、それはすなわち自分でこしらえなければならないということが。
 数年間のあいだに私は4つの住宅を建設することに関わったが、いつもその仕事からは学ぶものがあった。私は作るプロセス、とりわけ人々と一緒にたのしく行うという手法を見つけていったが、私は、手作り建築の情報交換の場に対しては、この素人としての見解を大事にしようとしてきた。そして私は建物作りを学ぶのと同時にそれを写真に撮ることをし始めた。私はどこへ行くにもカメラとノートを携え、特に小さい建物を記録した。それは必ずと言っていいほど使い手自らが作る建物がある場所へと導かれることになった。私が見つけたものについて、何が私を引き付けたかという観点からそれらハンドメイドの建物が持っているいくつかの特徴をあげて見る;

・優れたクラフトマンシップが表現されていること
・実用的でシンプルで経済的で有用なこと
・効率的な資源利用がなされていること
・風景に配慮がなされていること
・美しくほほ笑ましくて、良いバイブレーションが漂っていること
・デザインや具現化したものに誠実さが見られること
・そして、あるいはまた、やたらと創造的なこと

 「ホーム・ワーク」は地理上の包括的なものではない。どちらというとアメリカ西海岸にウエイトが置かれている。そこに私たち自身が住んでいるからだ。また、すべての作り手、建築の技術、あるいは材料といったものをカバーするものではない。そして都市というよりもカントリーである。私たちはなんでもかんでもを集めようとしたわけではない。どちらというとそれは私がこの何年かの間に出会った、ほとんどを自分たちの手で作った一連の建物ということができる。
 それはそれは愉快なものであった。私たちは現在、多くの要因によって強い変化が引き起こされている世界に住んでいる〜それは主としてデジタル革命というものだ。ただ、住まいはまだ人間の手でこしらえなければならないものだ。コンピュータはそれをやってはくれない。私たちは「ホーム・ワーク」誌が建物を作ることについて、読者がそそのかされることを願っている。そして実際やればできるのだという自信を与えるだろうことも。

 ”あんた自身が震わせることに手を出すまで、あんたは何が震えているか知らない”
  ジョニー・アダムス/ブルース・シンガー

 あなたが住まいを建設することができない場合にはどうなるのか?、別な切り札はある。あなたはあなた自身のアイデア(そして精神)を発揮して、アパートメントの改造(あるいは改装)を行い、スタジオや納屋、ツリーハウス、作業場、温室、サウナ、家具などといったものをこしらえることができる。自分の手と体を使って。

 この本をまとめるにあたって総合的な計画(マスタープラン)といったものを私たちは持たなかった。すさまじい量の資料〜写真やインタビュー、文章〜はあったが、最終的な形をどうするかについての方針がなかったわけである。それでも私たちは編集をスタートさせ、一度に1ページをまとめていくというようなことをした。そうやって進めていったとき、途中から本はその形を自ずから現したようだった。資料は入り続け、本の形は変わっていった。約一年後そういった一連の有機的なプロセスを経、「ホーム・ワーク」はでき上がった。
 この原稿を書いている今、本自体は印刷屋にまわっている(ので手元にない)。にも関わらず私は「ホーム・ワーク」で取り上げた共通の関心を持つ一連の人々=ビルダーの家族を含め、取り上げなかった人々についてまで身近に感じることができる。彼らは似た者同士だ。この本で彼らを一同に会させたのは、読者に彼らの仕事(公開してしまったあとのケアをするためにも)を伝え、私がそこで発見したことを互いに共有するがためである。

 ほら!、これがやつらのしでかしたことだよ!

 親愛なる読者諸君、私たちと連携しようではありませんか。もうひとつのシェルターの旅を通じて〜それは、作り手たちの・夢想家たちの・そして人間的な魂を持った選りすぐりの実践家たちが登場するこのスクラップブックの中にあるこの30年間におけるややレトロな冒険旅行(オデッセイ)とでもいうものですが。

 シェルターというものは頭上の屋根以上のものである。
 ルロイド・カーン

Home Work : handbuilt housing / by Lloyd Kahn
2004 Shelter Publications, Inc.
www.shelterpub.com