2007年04月号 /
USOニュース
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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070430 「庭工作隊・インタビュー」
/ナガタ・ま
 最近町外れの住宅の工事現場にこの付近ではふだん見かけない職人さんたちが出入りし、なんだか楽しそうに工事が進行していると聞き取材に行ってきた。以下、関係者へのインタビュー。

記者;

 これはどのような工事なのか紹介してもらえませんか?

施主;

 私はいま東京に住んでいるんだけれど、定年というのが見えてきて急に暮らし方を変えたくなった。仕事や会社がきらいとかということじゃないんだけれど、もっといろんなことをしながら生活したいと思いながら、なかなかできなかったから。幸いある程度の自営ができそうな職種だし、なによりつれいあいが「楽しいのがなにより」と賛成してくれた。子供たちが自立したというタイミングというのもあった。よく老後は田舎暮らしとかいうけれど、体力・気力が残ってないと見通しが立てにくいと思う。もうリミットだという気がしたわけ。
 趣味の山歩きのときによく来るこのあたりを気に入ってて、ま、どこでも良かったのかもしれないけれど、試しに地元の不動産屋さんに聞いたらこの土地が見つかって、あとはもうずるずると計画進行しかないという感じで...。
 そう、だからこの建物は私たち二人の住居なんだけれど、互いの仕事場でもある。また、できるだけ地域の人たちなどに開放して多様な使い方ができるほうが「楽しい」と考えた。まだよくわかってないんだけれど、自分の財産として城のように立てこもる、なんてのはごめんだという気がした。でも実態としてどうしたらそうならないのかは今も課題なんだ。
 建物は地元の業者さんに頼むしかないかなって思ってたんだが、以前見た雑誌に「たいがいのところに行く」という旅芸人(笑)みたいな職人チームが載っていて、なんじゃこりゃと気になってたわけ。問い合わせてみたらいろんなことを言われて、うるさいんだけれど、なんか魅かれて...、ふつう業者の営業ってのは「やらせてください」の一点張りでしょう?、そうじゃなくて「あんたに何ができるのか?」って盛んに聞くわけよ。そんなこと何も考えてない。お金を用意してハンコを押せば建物が手に入ると信じきってたから。せいぜい木で丈夫につくってほしいな、くらいの希望を言えばあとはやってくれるものと...。ところが「工事の何に手を出せるか、どの位時間が作れるか?」などとしつこく言われて(笑)、一度は面倒だから関わってもらうのをやめようと思ったくらい(大笑)なんだけれど、なんかピンと来たわけ。感度わるくないでしょう?

 どういう建物にするかという打合せは、彼らとこの土地にキャンプすることから始まったんです。ヤブ蚊がすごくてね、テントの四方に防虫スクリーンが下がるのを彼らが用意していて、その中にベニアの台を置いて大きな紙を広げ、まるで映画で見た戦争の前線基地みたいだった。それから町中を走り回って、どういう材料が手に入るかとか、水道とか電気とか地元の業者さんにも協力してもらわなくちゃならないから話を聞きに行ったりとか、知らない町なのにそういうのでずいぶん人間関係ができて、相手はみんなぽかんとしてましたけどね、何考えてんだ?って。今もまだそうかな。

 私まだ会社行ってますからね、日曜の今日もこれから戻らなくちゃならない。だいたい木曜の夜来て、そう金曜は休む。会社ではあいつは週末必ずいないってことになってる。もういいんだよやめるんだし。でも月曜から木曜まではがっちり働くからね、能率いいんだ。

記者;

 「庭工作隊」って不思議な名前ですけど。

職人;

 実際には建物(おもに住居)をこしらえるいわゆる建築屋ってところなんですが。私たちは、建築物は「誰が」「どの場所に」「どのように」という全体的な枠組みの中にあって分かちがたいものだという考えから、そういう全体像を勝手ながら「庭」と命名しました。部分としての建物だけじゃなく全体としての「庭」。それをこしらえることに関わろうというんだからと、とりあえず「庭工作隊」にしてみたわけです。「総合」建設業なんていうのとはちょっと違う。
 たとえば暮らしの全体性ということでは、それをかつては「家」って呼んでもよかったのかもしれないけれど、今どきそういうんじゃない方が面白いだろうなという見通しも持ってたし。何故って...、あなた家ってものに住みたいですか?(と記者に質問/えー、考えたことなかった...)。

記者;

 なんでまたこういうことを始めたの?

職人;

 私、このことを始める前は設計事務所に勤めてて、仕事を覚えて資格とって早く自立したいなーっていうくらいの考えだったんですが、だんだん図面ばっか描いているのがつまんないっていうかコワイっていうか、という気分になってきて、ま、転機だったんですかね。そうしたらがぜん作ることもしてみたくなって。建設会社に入ろうかと思ったんだけど「あんた女だしなー。」ってわけでだめで。私も建設会社の内実をある程度知ってるから、こちらはこちらで作るだけみたいな、そういう覚悟でもないしなーって、この方針はナシ。
 そうこうしてるうちにある人から「既存のものをあてにしないでさっさと自分でやれば。」って言われて。私カルイもんだから、いや半信半疑でもあったんだけれど、友達に声をかけて、だめだったらやり直そうって、一日一回はそんな話をしながら、身内にも協力してもらって、「早く病気を治すんだよ。」だなんて言われたりしながらなんとかスタートさせてみたわけです。
 もうヒヤヒヤしっぱなしですよ毎日。

記者;

 手仕事は修業したわけでしょ。

職人;

 不遜かもなって思うけれど、それなりにできちゃう。左官とか板金とかは無理しないで外注することも多いし。事務所時代にだいたいのことはアタマで理解していたから、最初の数件はアクロバットだったけれど、なんとか手は動く。それに、慣れ親しんでそれを繰り返して、はなるべく避けたいから毎回小さな実験みたいなことにトライするということもある。お宮(社寺仏閣)を作る仕事は来ないしね。椅子ひとつこしらえるほうがよほど難しいかもしれないともこのごろ思う。
 修業はいやだよー、なんかそこに篭らなきゃって感じしない?

記者;

 旅は疲れませんか?

職人;

 長くなるとね。でも移動は楽しいですよ。帰るところがあるから旅は楽しいだなんて言うでしょ?、帰るところどこ?ってこのごろ思う。なくたっていいよ、しばらくは。ホームレスだよ。
 工夫はする。くたびれると仕事が荒れるし。ハコ車のシャワーじゃなぁって思ったら温泉に行く。適当に宿屋に避難もする。でも現場に寝るのが一番かな。作りかけの建物って原始的なパワーにあふれてるんだよ、自画自賛だけれど。星空をバックにしたフレームのシルエットなんかすんごくきれいだ。アブナイからあんまりやんないけど。
 ちょっと苦労するのは食事。キッチンも冷蔵庫もこの通りハコ車にあるんだけれど、畑は持って歩けないからね。実家がいろんなものを送ってるれるし、休みの日はおいしそうなものを探しに行く。その地域のいいものってのにだんだん鼻が利くようになってきましたよ。

 私は住むところなんかどこでもいいって、いや、どこにでも住んでみたいって思う。1ヶ所に長ーく居続けると安定するかもしれないけれど、周りを見えにくくする力も強く作用する。発見が乏しくなって行くというのか...。昨日電話がきて、南米に作りに来ませんかって、一種の生活支援なんですけど。なんかぼーっとしちゃって。なんていうのか、人がそんなふうに必要とされるってすっごくシアワセなことでしょ?揺さぶられるよ。

施主;

 行くならここが完成してからにしてね(笑)!

記者;

 だいたい完成に近づいているようですが施主としてはどんなことをなさった?

施主;

 いっしょにボード張ったりペンキ塗ったり、およそ何でも。この場所はもっと木が生い茂っていたんだけれど、それを倒して薪にしたり。菜園なんか適当にあとで考えようって思ってたら、適当じゃだめだってこの人たちが言うもんで、いっしょにスケッチ描いて、そうしてるうちにベリー園っていうイメージが固まって、いま苗木を手配しているところ。排水を利用したビオトープってんですか?、基礎の工事の時に石がいっぱい出てきて、それを積んで水路にしたり。アプローチの舗装も私がこれでやったんですよ、あと井戸の囲いとかも。今やってるのはレンガの窯、パンを焼こうと思ってね。大きい?、近くの人に分けられるくらいがいいと思って。

 工事の始め頃はこの人たちに押され気味って感じが強かったけれど、最近は腕前が上がってきましたからね、結構対等という感じになってきましたよ。そうか南米か...、私も行きたいかもなぁ。

職人;

 行こう、行こう!(爆笑)

※フィクションです

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