2007年05月号
USOニュース
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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070527 公務員当番制30周年
ればん太
 ○○市では公園の管理業務委託から端を発した公務員当番制を導入してから30年が過ぎた。公務員当番制というには、市民は必ず3年から5年公務員として働かなければならないというものである。制度導入後、今まで市民の6割以上が公務員を経験したことになる。

 ことの発端は市内のある小さな公園からだった。当時ある公園で、近所のおばちゃんが草花を植えて育てていた。市の公園管理担当者は「公共の敷地に勝手に植物を植えては困る」とこのおばちゃんに苦言を呈していた。ところが誰も困っていなかった。それどころか評判は近所でも上々だったのである。結局市担当者と近隣の住民の話し合いの結果、このおばちゃんら近所の方々数名に市が公園の管理業務を委託するという形で決着がついた。当初近所の人の中にはおばちゃんの草花に好感を持てない人もいた。しかしおばちゃんらはそういう人たちの意見も取り入れ、芝生を張ってみたり、木を植えてみたり、ベンチを置いてみたり、撤去してみたりと、試行錯誤を続けた。そうしいている間に、公園に関心を持つ人が増え、結果的に管理業務委託はうまく機能した。一方市側でも、折からの財政難により、市職員数を減らさざるを得ない状況にあった。試しに他の公園でもこのような管理業務委託をしてみたところ、概ね上手く行った。

 公園だけでなく他の業務もこのように出来ないか検討を重ね、徐々にその範囲は拡大していった。特に暇をもてあましていた団塊世代はこれに食いついてきた。
 しかし業務内容によって人気のばらつきがあるし、時期によっては人が集まらないこともあった。これは制度を安定させるのに長い目でみればよくないだろうということになり当番制の導入が提案された。
 当番制には猛烈な反対もあった。そもそもやりたくない人に強制させるのはよくないという声が強かった。しかし、右派政党は”勤労奉仕のバリエーション”としてとらえ、左派政党は失職者に対するセーフティネットになるとし、制度的には当番といってもある程度の選択性を持たせる工夫をすることで、当番制導入実現となった

 そもそもは市の財政を圧迫する公務員にかかる人件費削減がこの制度の主たる目的であったが、今では思わぬ効果も出てきている。
 市政の無駄は比較的早い段階で市民にさらけ出され改善されていった。いわゆる窓口業務にはてき面にそれが現れた。一方、事によってはそれなりに手間とコストがかかるものもあるということも理解され、市民の多くが市の抱えている諸問題を理解できるようになった。その結果本当に必要な歳出は何かということが全市的に議論され、市政自体が合理的に運営されるようになってきた。
 また心配されていたことのひとつに談合などの官民癒着が横行するのではないかということが当初は挙げられていたが、今のところ、当番公務員が担当する案件はそれほど高額な業務がないとは言うものの、それは杞憂に終わっている。
 比較的短期間で市民と公務員の立場が入れ替わるので、逆に談合がやりにくくなっているようだ。公務員の方でもそれほど強い影響力をつけることは困難だ。たとえ行われたとしてもすぐばれてしまうリスクが高いし、また業者側からみても担当者がすぐ変わっては継続的に談合が行うのが難しくリスクも高いので談合を避ける傾向にある。また当番公務員を経験した業者などはそもそも市民として無駄な金は使いたくないという意識が働いているようだ。
 官民の関係だけでなく、官官の関係にも変化が見られる。国などの上級官庁にも役人としてというよりも市民の立場で物が言えるようになっている。
 かつてのように自分の部署の予算を増やすことが成果、あるいは天下り先をどれだけ作るかが役人の評価の対象となる、というようなこともなくなってきた。
 市民が市政を動かすことで市政への関心と責任感が確実に芽生えてきている。
 今後はさらに専任公務員と当番公務員のバランスを見直し、より専門性の高い分野でも当番制枠を拡大できないか検討する方向だ。また短期居住者向けのプログラムや当番の期間や回数などもより幅を持ったものするなどの運用の改善が予定されている。

※フィクションです

■ればん太;世界大旅行から帰還後S市にて建築設計事務所を運営中■

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