2007年07月号
USOニュース
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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070728 白昼の闇畑
ればん太
 S市でごみ収集が有料化されて以降、もともと低所得者層の多いH区では、有料ごみを少しでも減らそうと生ごみを土の現れているところに埋める人たちがいるようだ。

 どれくらいの規模の人たちがそうしたことをしているのかはまだ把握されていない。

 こうしたモラルに反した行為が目立ってきたのだが、市は「特に苦情が寄せられていないので今のところ特に対応する予定はない」と意外な反応を示している。これには市も黙認せざるをえない事情があった。

 もともと生ごみは水分が非常に多い。 それをわざわざ焼却炉で焼くわけだから、炉の温度が上がらず、すぐに炉が傷んでしまい、修繕費が非常に高くついていた。しかも十分な温度に達しないで発せられる煙には有害物質も多く含まれる。

 ところが焼却炉に持ち込まれる生ごみが減ったおかげで、燃料費も下がるし、炉も傷めずに効率よく稼動させることができるようになったのである。

 ただ同じ場所に生ごみを埋めていたのでは悪臭がただよってしまう。バレないように次々と埋める場所を変えているようにも見えるが、それ以上の意図がないとも言い切れない。その後、今度は誰かがその堆肥化した土に野菜の種を蒔いたり苗立てをし始めているのだ。生ごみを埋める人と種を蒔いている人の関係は不明だ。同一の人かもしれないし、全く無関係かもしれない。

 勝手にこの「畑」の世話をしている人たちもいる。雑草を抜いたり、たまに水をやったりしているのだが、彼らによると近所では行くところもすることも少ないので暇つぶしにちょうどいいとのこと。

 今では、トマトやじゃがいも、にんじん、ねぎ、各種ハーブなど様々な野菜が成長している。もちろん世話は行き届かず勝手に自生しているものとでも言っていいくらいだから、農家のものより小さかったり形も悪かったりするのだが、それでも十分食べられるものだし、鮮度も高く、近隣住民の中にはこの野生の野菜を利用している人が結構いるようである。

 もともと街中では土が露出している所は少ない。最近では、古くなったり傷んだコンクリートやアスファルトが端から少しずつ剥がされ、生ごみを埋められるエリアがじわじわ増やしているようである。そのエリアが増えたぶんだけ「闇畑」とでもいえるエリアも増えていくことは間違いない。

 したがって今後ますます白昼の「闇畑」で雑草ならぬ「雑野菜」がこの地域で増えていきそうである。

※フィクションです

ればん太;世界大旅行から帰還後S市にて建築設計事務所を運営中

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