2007年08月号
USOニュース
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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070831 ツリーハウス・ビレッジ
文・イラスト;ナガタ・ま
 ビジネス街から西に車で15分も走ると市内からいちばん近い山があります。最寄りの地下鉄駅からタクシーで1.000円余り。バス停からは歩いて坂道を15分。その一角にいつの間にか、ひとつできたなと思ってたらもうひとつ、さらにふたつという具合に、今10個(軒?)ほどのツリーハウスができています。
 その制作と維持運営をしているのが「庭工作隊」と聞き、現地で副隊長の家内(いえない)さんに話しを聞きました。(以下談)

 こうなるとは始めは思っていなかったんですが...。
 最初は“みんなで耕す畑”ということでこの土地に通って来ていたのですが、よく市民農園なんかにきたない(!)小屋って建ってるでしょ?あれ農機具とか置くのにしょうがないもんだと思うんだけれど、私たちもそういうの必要だよね、暑い日は日差しをよけてくれる休憩コーナーもあるといいね、なんて話してて、畑の廻りをぐるっと見渡したら結構大きな木もある林なんですね。誰からともなく「ツリーハウスってのをやってみようか。」ってことになって、用途はともかく、土ばっかりいじってるのも飽きてきたもんで、やろーやろーって、ぱーっと作っちゃったわけです。
 形はきちんと考えようと、単に木の上に持ち上げただけのフツーの建物じゃダメって私が言って、それで一つ目は、床は製材した市販の木だけれど屋根はロープを立体的にクモの巣のように張って、それからその辺にいやというほど生えてるクマザサを葺いて(縛りつけて)いった。アイヌの人たちが狩猟などで作る仮小屋の資料なんかも参考にしたわけ。

 5〜6人で1週間くらいかかったかな、でき上がってみたらとても良くてね、そう、そんなに私は期待がなかった。そもそもちょっと流行りだし、遊びといっても余裕はないやって毎日だったしね。
 地面から2〜3メートル床が上がってるだけなのに視界の開け方が思いもよらない感じだし、林の中からすーっと吹いてくる風も地面の上とはずいぶん違う。へぇーって感心しちゃったわけ。
 この形は私が主導って感じだったんだけれど、でき上がってみたら他のメンバーがもうちょっと違うのもやろうよ、って。ま、悪魔のささやきだったわけです。悪ノリの始まり。
 次から次から作ってしまって...。このことだけに参加するメンバーも出てきて、つり橋で互いに連結するのとか、重箱って言ってるけど、できた空間の上にさらに2階を重ねたり。材料も始めはこのあたりにあるもの、って約束みたいにしてたのが、みんなで協議して“おもしろい”って合意ができたら別なモノもいいってことになった。だから解体した建物の材料とか車のスクラップとか帆布とか。でも、あくまで仮設的に行きましょうということは、ま、概念みたいなものだけれど、守っていたいと思っています。調和、悪くないでしょ?全体に、あるいは林との関係とか。

 仮設ということは、材料だけでなく、ハウスっていえばお風呂もトイレも、洗濯どうするんだキッチンは?ってエスカレートして行きがちなのを、ほどほどに、仮設的にと押しとどめているわけです。一種の見識だと思ってるんですけどね私たちは。
 それはどういうことかっていうと、今ここのツリーハウスに寝泊まりしてる人ってたーくさんいるんですよ。カップルもいるけれどだいたいが一人。夜やってきて泊まって朝出て行く。仕事に行くみたいです。きっと仕事が終わったらいったん家に帰ってお風呂に入ってご飯食べてというのを済ませてからここに来る人がたいがいだと思う。いや、個人所有はしてません。作ったのはみなボランティア的にだし、一応の管理は私たちのチームがしているけれど、ホテルみたいに何日から何日までのご滞在ってなふうなスケジュール管理とか、壊れそうだとかの対応とか。そう、このあいだ「山の上ホテルでしょ?」ってタクシーの運ちゃんに言われてびっくりしましたよ。
 小さなたき火を(これは地面の上ですけどね)囲んで遅くまで話し込んでいる人とか、五右衛門風呂があるんですけれど、暗いから女性でも平気で入るみたいだし。希望があって無線LANは設備しました。仕事だかなんだか知りませんけれど。電気は引いてない。そのうち太陽光でとは思っているけれど、本読んだりコンピュータを使ったりする人はロウソクとかランプでやってる。この環境が夜も明るくなるなんて誰も希望してないし、どこかのキャンプ場みたいにらんちき騒ぎなんてないからね。静かで落ち着いている、でしょ?。

 なかなかいいかもなって思うんだよ、こういう生活って。別にどこで仕事しようが食べようが寝ようが、いろんなふうでいいという気がする。固定的な家がなきゃダメって、そこから離れられない人は別に無理することはない。だからこの方が正しいとか言うつもりはないし、暮らしの未来ってよくわからないけれどとても現代的だとは思える。少なくとも私にはフィットしてる。
 単に漂流してるって感じじゃないんだよ。この前なんかみんなの畑のじゃがいもを掘って、「ここへ来たときの食べ物が自前であるっていいよな」って、ちょっと感激したんだ。(談・終わり)

 この村のようなものは自然を相手にした冒険遊びと括ればそうなのかもしれません。でも冒険の入口を入ったらいろんな道があって、どうも少しヘンテコな方角を向いているのがこの村のようです。昔のヒッピー部落みたいな先入観が訪れる前になかったわけではないのですが、滞在してる人たちがビジネス・スーツを着ていたり、もちろんTシャツにジーンズ・長髪なんていう人もいるけれどとにかくいろんな人がいるなぁという印象でした。
 これから冬に向かってどういう展開になるのか、あらためて取材をしたいと思っています。家内さんの話しではこれから多少の設備を加え、冬も活動を継続するとのことでしたので。

※フィクションです

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