2008年02月号
USOニュース
発行;庭しんぶん
庭プレス社
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080228 山村交錯隊
文・写真;ナガタ・ま
 最近見慣れない若者たちが週末ごとに現れるという。観光というには「なり」はきれいではないし、この町にそんな場所はない。彼らはクルマもボロそうだしいかにも怪しい雰囲気、だがアブナイ気配はなさそうだ。というわけで、まずは会ってみようと...。

記者;
 どこから来ました?

若者A;
 札幌。

記者;
 少し遠いね。

若者A;
 うん、でも1時間半だよ。

記者;
 なにしてるんですか?

若者A;
 畑。

記者;
 耕してるの?

若者A;
 そうだよ。

記者;
 (うーん、なんかレスポンスがまどろっこしいな...、別な人に聞こう)あの、こんな天気のいい日に遊んでるわけじゃないみたいだし、5人もで汗まみれになって何考えてるんですか、って聞いていい?

若者B;
 私たちは「山村交錯隊」なの。いや、その1派、かな(※工作とか耕作じゃないのだそう)。耕作が放棄された田舎の農家の跡地とかを借りて自分らで耕す。そういう活動を勧めてる札幌のNPOがあって、私たち札幌でマンションとかアパートとかにせせこましく暮らしていて、もう少し人間的にっていうのかなぁ、朝目覚めたら窓先に野鳥が来てるとか、会社から帰ったらちょっと土いじりして夕食のテーブルにそこでできたレタスとかトマトとかが載せられるとかってすんごくいいなって思ってたんだけど、じゃあ田舎暮らしか、仕事どうするんだろう、彼氏ついてこないかもなんちゃって思ってね、でそのNPOの人に「なんかうまい方法はあるのかな」って話を聞きにいったわけ。そうしたら「できそうなことからやれる」ってんで、去年からだよこういうふうにしているのは。

記者;
 どうしてこの土地なの?

若者B;
 私の親戚がこの隣町に住んでて、「おばあさんが一人暮らしになっちゃってもう耕せないと言ってる畑が2反ほどあるんだが、売りたいわけじゃないみたいだし(買う人もそういない)愛着もそこそこあって、だれか耕作してくれれば畑もうれしがるんだけど、そんな気ままを聞いてくれる人はいないよね」って私の親に茶飲み話っていうか電話のついでに言ったわけ。それが私に漏れ伝わってきて「よし、いっぺん見に行こう」ってのが一昨年のお正月だったかな。ねー、すんごかったよね、吹雪で。なーんにも見えないんだから。はは、ここの土地の人だったら知ってますよねそういうの無謀だって。畑は雪の下でぜんぜんわかんないわけだけれどおばあさんには会えてね「ははあBさんのお母さんよく知ってますよ。立派におなりになってね...」ってことでね。私の母親、隣町の出身なのよ。一応小学校の校長なんだけどさ、ウチにいるときは酒飲んででれーっとしちゃって、あ、オフレコね、だから親がしっかりものだから畑貸すよってわけでね。親にありがたいという気はないんだけれど(これもオフレコ)なんか便利かも、ですね。
 でもおばあさんも許可したけど心配になったんだろうね、だって都会の若者がひょいっと訪ねてきて「畑どう?」なんちゃってなわけでしょ。あとで知ったんだけどおばあさんからウチに連絡があって「本当ですか?」って。親にあんまり詳しく言ってなかったから叱られたんだけど、まあうまく取り繕ってくれたのよ。「なんかヘンな娘でね、土いじりしたいんだったら農家の嫁にどうだ、って言ったんですけどね、まあその練習ですかね」なーんて返事をしたらしいよ。

記者;
 農作業したことがあるんですか?

若者B;
 あるわけないよ。生まれてずーっとマンションだし。さっき言ったNPOでも研修させてもらえるんだけど、私たちはラッキーだった。おばあさんがめちゃ親切でね、道具は貸してくれるし種も農協に言ってくれる。私たちビビったんだよ2反てデカイって、そんなもんわけないってね隣のおじさんがトラクターで一瞬のうちに春起ししてくれちゃったし。もう手取り足取りだよおばあさんに。こんな元気だったら畑貸す必要ないじゃんって思った。大博士だよ、たまげたよ。

記者;
 でも通って来るのってたいへんでしょう?

若者B;
 まあね。実はわたしは運転免許ないからどうしようかって思った。彼氏は車持ってるけど畑に関心ないはずだったしね。アッシーやんないかなって思ったけどなかなか言い出せなかった。温泉にドライブとかあったけど、まさか畑に長靴積んで行けって言っていい相手かどうか心配だったんだよ。「ナニ考えてんだオマエ」で終わっちゃったら悲しいもの。でもね、結果はうまくいった。なんかわたし畑したいなって考えたそのころ(今もだよ)光ってたみたいだよ。そこに彼氏はきっと惚れ直したんだな、ふふ。でもはじめはちょっと苦労。クルマを外も中も泥んこにしちゃうし、運転してやってる、みたいな態度がありありだったしね。救いの神様はその博士だよ。おばあさん。若い男の子を気に入るんだよ。わたし二人並んで草取りなんかしてるのを見るとシットするよ。今なんかわたし取るかおばあさん取るかってくらい親しげなんだから、もう。

記者;
 畑にはあんまりいろんな種類は植わってないようですが...。

若者A;
 ぼくら普通の日は働いてるだろ?ここに来るのが土曜か日曜。お天気もあるしほかにしたいこともあるからせいぜい月に2回くらいかな。博士様は「そんな了見じゃ畑だめだ」って怒ったこともはじめはあった。でも「まあ仕方ないか」工夫しようって。つまりあんまり手入れを数多くしなくても育つもの、麦とかイモとか。始めの年から博士がついてるからね、じゃんじゃん採れて、もううれしくって友達とかにあげてたらあっという間になくなっちゃった。今年は計画的にね、一人暮らしも家族持ちもいるから必要分を分配して大事に食べようって話している。始めはできた!ってことで楽しかったけれど、これからはここで出来る物はなるべくお店で買わないようにして過ごしてみたらもっと楽しいかもって。

記者;
 そう、楽しいんですか、畑が...。

若者A;
 うん、仕事はまだ駆け出しだしでなかなかたいへん、でもだんだん楽しくしたい。他にバンドやってんだけどこれはもうハマる。3食昼寝なくても音楽(「なんだそれー」の声)。この畑1派は実はバンド仲間。畑はBちゃんが言い出しっぺ。音楽家は土に親しむべし、だなんてマジか?って思ったけど、考えてみたら畑やりながらロックやってる人なんてアメリカなんかにはぞろぞろいるもんね。なんかまだよくわかんないけど、畑って楽器みたいだよ。上手に弾くとすんごくいい音がするもん(「えーぞえーぞ」の声)。

記者;
 だったらここに越してきて農家を構えるとか考えないんですか?

若者B;
 まあね。でも農家って作ったものを売るでしょ?わたしいくら畑が好きでラブラブでも売るところまでまだ考えられない。無責任?そうかもしれない。農家って食べ物を作ってその場所を維持してきたし、環境ってよくわからないけど、地域とか文化とかがつながって行くような役割もあったみたいだし。そのことに意義はあったと思うけどわたしがまたそれをするのか?って思う。
 わたしたちは軽い。ただそれが悪いわけじゃないだろうと思う。この2反で5人以上がけっこう食べられそう。売ったり買ったりはしないけれどそうやってこの土地を維持して行けたらそれでもいいじゃない?。何千万の借金なんていう農家なんかやりたくないよねー。

若者A;
 それとね街を離れたくないかな。前はなんか街の活気みたいなものにただぶら下がっていたような気がする。いまこんな田舎に縁ができてちょっと違う感じ。なんていうか自分が何かする動機とか責任ってもんがその両方にあるっていうのかな。

記者;
 これからどういう展開になるんでしょう?

若者A;
 畑ってすんごい学校。博士ばっかり頼りに出来ないけれど生き物じたい、それから社会の成り立ちとかもいろいろ考える。楽しい勉強があるって今まで思わなかった。

若者B;
 私たちと同じように週末に田舎に出かけて行くチームのいくつかと知り合いになったんだけれど、たとえばここでは穀物は作るけど果樹がない、でもここから30キロくらい西の方でそれを中心にやってる人たちがいるの。物々交換でも行ったり来たりでもいいんだけれど、そうして補完しあうっていうんですか?すると、えー!スーパーいらないじゃん、ってことに気がついたの。そこまでできるかどうか別だけど、わたしたちどうしても「良く売れるものがいい評価」って学習ばかりしてきたでしょ?そうじゃないことがいっぱいある、って畑にいるとわかる。
 だからもう何ヶ所か拠点を作って「今週はあの町」「来月は別な町」って通ってみたいかな。
 博士をこのあいだ友達の果樹園にさそったらすんごく楽しいドライブになった。見渡したら博士っているよねいろんなところに。でもすぐにいなくなっちゃうよ。困るよ、きっと。

若者A;
 ぼくたちはどこへでも出かけて行く、なんて言えたらカッコいい。行った先で耕した場所が自分たちのものになる。土地をお金で買って所有するっていうのと同じじゃないよ。占有するってことじゃない。それは地球が自分たちのものだという感覚にどこかつながっているんだと思う。
 それはきっとすんごい希望だよ。

※フィクションです

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